はちみつ草野の旅

issue_01

僕のはちみつを追って

〈後編〉

はちみつ草野の旅

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僕のはちみつを追って

〈後編〉

「みつろう」で肉を熟成させる
エイジング技法

草野養蜂家としての探究だけでは出会う機会の少ない、外の業界、外の世界で、多様な人がはちみつの多様な使い方を編み出しておられる。こうして、実際に使ってくださっている素晴らしいスペシャリストにお会いして、「はちみつ草野」も皆さんと一緒にちょっとずつ成長していけたら、こんなに幸せなことはありません。発酵にも驚きましたし、それから、以前お聞きした「みつろう」の使い方も衝撃でした。

楽しそうに立ち働くシェフ達との一体感も魅力のひとつ。オープンキッチンを囲む12席のL字カウンター

楽しそうに立ち働くシェフ達との一体感も魅力のひとつ。オープンキッチンを囲む12席のL字カウンター

外山ああ、「みつろう」。あれは僕もちょっと見たことがなくて、面白かったですね。

LURRA°さんから「みつろうを送ってほしい」ということで、お送りしたんでしたね。どんなふうに使われたのでしょうか。

調理は薪火のみでガスは使わない。キルン(窯)と薪窯の2種の窯を使い分ける

調理は薪火のみでガスは使わない。キルン(窯)と薪窯の2種の窯を使い分ける

外山お肉を熟成させるのに使ったんです。「みつろう」と焦がしバターを混ぜて溶かしたもので豚肉を包んで。ドライエイジング(乾燥熟成)は表面を乾燥させて熟成させますが、これは塩釜焼きなどと同じ原理で、中に包むことによって、水分が逃げない。旨味が凝縮され、なおかつ、「みつろう」の香りがついて、要はしっとりします。

へええ。

外山写真も撮ったんですが、みんな興奮しててブレブレで(笑)。

お肉のエイジングが「みつろう」でできるなら、やりたい人がたくさんいそうですね。

草野

これまでみつろうに関しては、
もったいないなと思いながら、活用できていませんでした。
じつは養蜂業の中では、「みつろう」は費用対効果が
見合わないと言われていて、あまり作っていないのが
今の業界の現状です。それを必要とする人がいなかったんですね。
ですが、こんな素敵な使われ方があって、
必要とする人がいるとやっとわかった。
これまで捨てる部分が多かった「みつろう」ですが、
きちんと生産すれば必要とする人が
いるんだということが分かって、
またひとつ循環のサイクルが見えてきました。

外山こんな方法は僕もこれまで知りませんでした。それに「みつろう」が必要だというのでシェフが「みつろう」を探していたのですが、こうした技法は、やはり彼らの海外での知見からくるものですね。

シェフのジェイカブ・キアーさんは、発酵文化のイノベーター、デンマーク・コペンハーゲンのNOMA(ノーマ)にもおられました。

外山はい。そうした海外の料理のテクニックを取り入れながら、LURRA°では、ガスを使わず、キルン(窯)と薪窯の2種類の薪火を使い分けて調理します。そこに発酵や燻製の技法がさまざまに使われています。

外山さんからシェフへも紹介され、ドリンクだけでなく、料理にも「はちみつ草野」のはちみつが使用されている

外山さんからシェフへも紹介され、ドリンクだけでなく、料理にも「はちみつ草野」のはちみつが使用されている

草野LURRA°さんでは、当初ドリンクにということで「はちみつ草野」のはちみつを取り入れていただきましたが、シェフも気に入ってくださり、お料理にも使っていただいているとのこと。とてもうれしいです。

ビーポーレンは、
海外で注目のスーパーフード

海外発といえば、ミツバチの足につく花粉も食べられるとか。

外山ビーポーレンですね。スーパーフードとして海外で注目されています。

草野日本ではニーズがほとんど聞こえてこないので、生産も進んでいませんが、必要としてくれる人に出会えることで、自分たちも新しい挑戦ができるようになるので、とてもありがたいです。

外山海外では一般的なようですね。僕が前にいたあるレストランでも、シェフがはちみつと合わせて使っていましたよ。フランス仕込みのメニューだと言ってましたね。

海外では「みつろう」を器としても使うそうですね。溶かして、固めて、また溶かして……とサステナブルに使えると。それってすごいことですね。

外山そうですね。LURRA°のシェフがいたコペンハーゲンのノーマでやってますね。それは絶対に需要があると思いますよ。レストランとしても、料理にはちみつを使っていて、器も「みつろう」で、とストーリーが完結しますので。

世界を行き来するシェフ達。技術や手法や味とともに食の文化も伝わっていくのだろう

世界を行き来するシェフ達。技術や手法や味とともに食の文化も伝わっていくのだろう

草野「自然の循環」というはちみつの特性が、こうして現場にうかがって、あらためて実感できました。こんなふうに人から人へ、土地から土地へ、国境とか業界をこえて、つながり、巡って、還ってくるんだ、と。

トランスローカルに人が動くことで、価値や情報が受け渡されていく

トランスローカルに人が動くことで、価値や情報が受け渡されていく

そのときに、技術や手法や味だけでなく、文化も共に伝わっていく。そんな時代になっていくんじゃないかなと感じています。ミツバチが花から花へとつなぐように、はちみつが私たちをあちこちをつないでいってくれているようで。トランスローカルに人が動くことで、いいものの情報がつたわっていくといいなと思います。

ノンアルコールドリンクの
概念が変わった

外山

「はちみつ草野」のはちみつを使うようになって、
どういう人が作ってるのかと調べてみたら、
「あ、これはやばい人たちだ」と(笑)。
はちの巣箱に手を入れたり、刺されても可愛いって、
どんな人だ?と。そして
「花のシーズンではなく、ハチのシーズンなんです」
というお話。

草野そうですね。見るべきは花ではなく、ハチと環境。花を取り巻く環境なんです。車でうろうろして、花の咲いている場所の所有者を調べてハチを置ける場所をずっと探してます。

外山その話を聞いて、だからこんなふうに単一品種のはちみつができるんだなと納得しました。

以前からはちみつは使っておられたのですか。

外山使ってはいましたが、そこまで使っていませんでした。やはり「はちみつ草野」のはちみつに出会ってからですね。この香りと旨味に。

この素材と出会って、ご自分のされていることがどんどん変わっていたのですか。

外山そうです。ソフトドリンクと呼ばれていたノンアルコールの世界が、ジュースからノンアルコールドリンクに変わった瞬間でした。そのきっかけを与えていただいたのは、草野さんのはちみつです。

素材と出会いに新たな可能性を見出したという外山さん。ドリンククリエイションへの挑戦は終わらない

素材と出会いに新たな可能性を見出したという外山さん。ドリンククリエイションへの挑戦は終わらない

ノンアルコールドリンクも、ドリンクペアリングも、まだまだ可能性がありそうですね。

外山はい。僕が始めた3年前に比べれば広まってはきましたが。僕自身も、専門性として、ドリンクペアリング、ドリンクのクリエイションに集中したいというのがありました。この京都という環境は、自然が近く、海外のゲストも多く、これまでとはまた違う体験ができる土地。さっきも言ったとおり、こういう素晴らしい素材があることで、ノンアルコールドリンクもペアリングも、可能性の伸びしろはさらに広がります。まだまだこれからです。

取材の後、LURRA°さんでディナーをいただきました。
お料理に、外山さん監修のペアリングドリンク、最高に美味しかったです。
そして、楽しい!
料理人の動き、トーク、調度に内装、お客さんまで揃って、世界のここだけにしかないショーのように感じました。

外山さんが、京都へはちみつを持って行ってくださると聞いた時、とても興奮したことを覚えています。
なにしろ、今までなかった西日本での展開、新しい挑戦でしたから。

そして取材当日、僕の想像以上のものがありました。
本当に、僕の想像し得ないものがありました。
僕のはちみつの先には、僕の知らない未来がありました。

取材協力 LURRA

ルーラ
京都市東山区石泉院町396
TEL:050-3196-1433(受付13:00〜17:00)
営業時間:ディナー二部制(一部 17:30〜 二部 20:30〜)
定休日:日、月
www.lurrakyoto.com
インターネットによる完全予約制


文・福田容子
写真・内藤雅子
編集/写真・山倉あゆみ